診療内容

口腔外科 ( ドライマウス)

あなたの口は渇いていませんか?

ドライマウスとは唾液の分泌が減り、自・他覚的な口腔乾燥症状を認めるものです。

口が渇く、のどが渇く、口がねばねばするなどの口腔乾燥、口腔内の疼痛、味覚異常が一般的ですが、中には粘膜に膜を張った感じがするとか、ざらざらした感じがするなどの症状があります。

唾液分泌量の低下によるドライマウス

●放射線治療の後遺症

臨床

口腔や顔面領域のがん治療や移植医療の一環で放射線を照射した患者にドライマウスを発現することがあります。これは、放射線によって唾液腺が破壊されるためで、ドライマウスは放射線治療の初期から発現し、症状は放射線照射量に依存するとされています。

チェックポイント
  • 病気の治療のために、放射線照射を受けたことはありますか?
対処
  • オーラルバランスなどの保湿剤や唾液分泌促進剤を用います。

 

●腫瘍や外傷の後遺症

 

●シェーグレン症候群

臨床

シェーグレン症候群は、涙液分泌低下(ドライアイ)、唾液分泌低下(ドライマウス)等の乾燥症状を主徴とする全身性の自己免疫疾患です。
1994年度の厚生省難病の疫学調査研究班と自己免疫疾患調査研究班の共同研究では、患者の男女比は1対13.7で40~60歳台を中心とした年齢分布をとると報告されています。また、1996年の厚生省統計情報部による患者調査では、シェーグレン症候群の総患者数は、42,000と見込まれていますが、潜在的な患者数は100,000人に達すると報告する医師もいます。
2000年のリウマチ白書では、関節リウマチ患者の19.4%がシェーグレン症候群を合併しているとの調査結果があり、関節リウマチ患者の中に潜在患者が多く含まれている可能性があります。
シェーグレン症候群による口腔乾燥症状は、唾液腺や導管周囲にリンパ球が浸潤し、後に腺房細胞の破壊、萎縮、消失、間質の線維化を来たし唾液分泌低下により発現します。唾液腺だけでなく、涙腺(ドライアイ)、気管・気管支(鼻の乾燥、気管支炎)、消化管・膵(胃液、膵液の分泌低下)、膣分泌腺感染など全身の外分泌腺に対して障害がおきることもあります。
さらに、腺外症状として、全身倦怠感、発熱、関節腫脹、間質性肺炎、高ガンマグロブリン血症に伴う紫斑、糸球体腎炎等を合併することもあります。

チェックポイント
  • 耳下腺が腫れて痛みを感じることがありますか?
  • 目の乾燥を感じることはありますか?
  • 関節リウマチなど膠原病を患っていますか?
対処
    • 口腔の乾燥感に対しては、唾液の分泌を促進する薬剤として、サリグレン(塩酸セビメリン)やフェルビテン(アネトールトリチオン)、麦門冬湯や小柴胡湯などの漢方薬などの内服薬が用いられます。また、頻回の含嗽、人工唾液の噴霧、オーラルバランス(口腔内用保湿ジェル)の塗布など局所療法も併用されます。
    • 腺外症状に対しては、対処療法が行われます。発熱や関節腫脹に対しては、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)が有効です。また、間質性肺炎や糸球体腎炎に対しては、ステロイドが使用されます。

      シェーグレン症候群は診断基準がとても厳しいため疑われる方は専門の医療機関で診断してもらいます。

 

●糖尿病

臨床

体液恒常性の破綻による脱水症状は給水で解決できますが、病的な原因によって口腔乾燥を訴える場合があります。糖尿病の場合は、糖が尿中に排泄されます。糖を含んだ尿は浸透圧が高くなっていて、水を尿管の方に引っ張る力が強くなります。その結果として多量の尿が排泄されることとなり、脱水症状とともに口腔乾燥症状が発現します。 糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病があります。 1型糖尿病:10~20歳代の若年者に発症します。 2型糖尿病:40歳代以降の中高年に見られることが多く、日本人の糖尿病の大部分はこれにあたります。肥満傾向があり、家族や血縁者が糖尿であることが認められます。 糖尿病患者さんは、感染しやすく、歯周病の進行度も高いとされています。血糖値が高い場合には、尿が増えて口腔乾燥症状が出やすくなります。 また、糖尿病患者さんは抗凝固薬を服用している場合も多いため、観血的歯科治療の際には、抗凝固剤を数日前から中止します。その他、専門医と連携をとった治療スケジュールを考える必要があります。感染しやすいために口内の清潔に心がけます。

チェックポイント
      • 糖尿病の家族や親戚はありますか?
      • 現在、他の病気で病院にかかっていますか?
      • 病院からもらっている薬や、薬局で買って飲んでいる薬はありますか?
      • 血糖値が高いといわれたことはありますか?
対処
      • 高血糖による口腔乾燥であることが考えられるので、内科などの専門医を紹介します。
      • 1次的な対処法としては、オーラルバランスなどの保湿剤を用います。

 

●貧血

 

●服用している薬

臨床

副作用によりドライマウスを生じる薬剤としては、降圧剤、利尿剤、抗ヒスタミン剤、抗うつ剤、抗不安剤、鎮痛剤がよく知られています。降圧剤や利尿剤は体内の水分を減少させることにより唾液分泌の低下を生じさせます。また、抗うつ剤や抗不安剤は、神経とその受容体に作用して唾液分泌を抑制します。

抗うつ薬 クロミプラミン、イミプラミン、フルボキサミン 等
抗不安薬 ジアゼパム、アルプラゾラム、ヒドロキシジン 等
向精神病薬 ハロペリドール、リチウム 等
抗パーキンソン薬 ビペリデン、トリヘキシフェニジル、レボドパ 等
抗高血圧薬 カプトプリル、クロニジン、カルベジロール 等
抗ヒスタミン薬 ジフェンヒドラミン、アステミゾール、クロルフェニラミン 等
利尿薬 クロロチアジド、クロルタリドン 等
抗コリン作用薬 アトロピン、スコポラミン 等
抗痙攣剤 カルバマゼピン 等
鎮痛薬 イブプロフェン、フェノプロフェン、ナプロキセン 等
気管支拡張薬 アルプテロール、イソプロテレノール、イプラトロピウム 等
チェックポイント
      • 現在、他の病気で病院にかかっていますか?
      • 病院からもらっている薬や、薬局で買って飲んでいる薬はありますか?
対処
      • 薬剤の服用によりドライマウスを発現している場合は、唾液腺の機能は保持されているので、薬剤の服用を減量あるいは中止することにより回復する可能性があります。ただし、薬剤を変更・中止した場合のリスクを考え安易に服用を中止することは避けます。薬剤を減量あるいは変更できないか?という点については、主治医に相談することが必要です。
      • 一時的な対処としては、オーラルバランスなどの保湿剤の使用も有効です。

 

●神経性

臨床

唾液腺は、副交換神経と交感神経の二重支配を受けています。唾液分泌の調節は、橋と延髄核との接合部付近にある唾液核からの副交換神経のインパルスによって主に行われます。この唾液核は、舌やその他の口腔領域からの求心性知覚神経線維を介する味覚刺激と機械的刺激の両方により興奮します。唾液分泌は、また、中枢神経系の上位中枢から唾液核に達するインパルスによって促進・抑制されます。
例えば、ストレスの多い状況下において時折生じる口渇は、従来考えられていたような直接的な交感神経による分泌抑制ではなく、むしろ上位の中枢による唾液核への分泌抑制作用によって生じます。
最近では、唾液クロモグラニンAが顎下腺導管部に存在し、自律神経刺激により唾液腺中に放出されカテコラミン濃度変化と相関することが報告され、精神的ストレスの新しい指標として注目されています。

チェックポイント
      • 最近、とても悲しいことや、気分が沈むことはありませんでしたか?
      • 強くストレスを感じることがしばしばありますか?
対処
      • 強いストレスや精神的にダメージを受けている場合には、神経内科や心療内科を紹介します。
      • 一般的な対処法としては、オーラルバランスなどの保湿剤の使用も有効です。

 

●老化

臨床

唾液の分泌量は加齢に伴って減少すると考えられてきました。しかし、唾液分泌には、安静時唾液と刺激唾液の大きく2つがあり、刺激唾液量には大きな変化はないことが分かってきました。
一方、加齢により咀嚼筋、口輪筋、頬筋など口内および口腔周囲の筋力が低下します。咀嚼機能の低下により、唾液が十分に分泌されず、唾液による粘膜保護作用(ムチンによる)や浄化作用が低下し、感染症(カンジタ症等)や疼痛の原因となることがあります。また、高齢者では高血圧など循環器用薬を服用している場合も多く、問診によって聞き出すことも大切です。
義歯の安定にも唾液は必要であり、唾液の減少により義歯が不安定になり、義歯により口内が傷つき、疼痛や感染症の原因になることもあります。また、義歯が不安定であることにより口内の動きが制限され、唾液分泌の低下を引き起こしているケースもあります。しかし、患者は、口腔乾燥を訴えることが少なく、義歯が合わない、舌が痛い等の症状を訴えます。

チェックポイント
      • 義歯は、合っていますか?
      • 食事は、良く噛んで食べることができますか?
対処
      • 乾燥した口腔粘膜には、保湿剤配合の洗口液である絹水やオーラルウェットを用いて粘膜の保湿を行います。保湿剤配合の洗口液は、うがいに用いるよりも、スプレーによる噴霧や、スポンジブラシで塗布する方法が効果的です。
      • 状況によっては、漢方薬(麦門冬湯、白虎加人参湯、柴苓湯)などが有効な場合もあります。
      • 義歯装着者では、義歯咬合の安定や調整により、唾液分泌量が増加することもあります。
      • 口腔内の粘膜が乾燥すると傷つきやすくなるので、義歯や歯牙の鋭縁を研磨することが必要です。
      • 保湿効果のあるオーラルバランス等を義歯床粘膜面や粘膜に塗布すると効果的です。

 

日常生活について

慢性的な唾液の減少による口腔乾燥症(ドライマウス)は、患者さんに様々な障害をもたらします。

  1. 食事など食べ物を食べにくい
  2. 口が乾いて話がしにくい
  3. 味覚がおかしい
  4. 虫歯が多かったり、増える
  5. 舌や唇がひび割れて痛い
  6. 唾液腺が腫れる
  7. 食べものを飲み込み難い
  8. 乾咳が出る
  9. 感染症
  10. 誤嚥による肺炎
  11. 萎縮性胃炎

など

これらの症状は原因を特定し治療すれば、多くは快方へ向かいますが、シェーグレン症候群など唾液腺に障害がある場合は、継続したケアが必要となります。

一般的な日常生活の注意点

1)口腔内の湿潤に気をつけること
ペットボトルなどを持ち歩いたり、保湿剤を使う。

2)口腔内を清潔に保つこと
歯磨きやうがいをよく行う。アルコール入りは使わない。

3) 咀嚼回数を増やす
咀嚼回数を増やす。(唾液分泌が促進されることがあります。)

4)固い飴やガムを食べる
虫歯の原因とならないシュガーレスやキシリトール入りを食べる。(咀嚼に関係し唾液が増える可能性があります。)

5)軽い運動をする
運動は自立神経を刺激して唾液分泌を促進。

6)酸味のある食べ物で刺激する
酸味は唾液分泌を促進しますが、口腔乾燥が重度の場合は痛みを伴う可能性があるので注意。

7)唾液腺マッサージ
顎の下や耳の下にある唾液腺をマッサージする。

8)服用薬剤を変更する
現在服用している薬剤で口腔乾燥のある薬剤は、主治医に伝えて可能なものは変更。

治療について

疾患の合併症の場合と唾液腺異常の場合で治療は大きく異なります。

 
 

慢性疾患の合併の場合

糖尿病や高血圧などの慢性疾患では疾患の治療を優先します。疾患自体が軽快すれば、口腔乾燥も軽快する可能性があります。しかし、慢性的に口腔乾燥が続いている患者さんには、一時的に
1) 保湿剤(ジェルなど:オーラルバランス等)
2) 唾液刺激剤など
を使うと効果的である場合があります。
その他、唾液腺マッサージや咀嚼運動(筋機能療法)も有効です。

唾液腺に異常のある場合

刺激唾液検査を行っても唾液が少ないシェーグレン症候群などの場合は、唾液腺の機能が低下していたり、障害されていることが考えれます。この場合は唾液腺マッサージなどでは無効な場合が多いのですが、塩酸セビメリンのようなムスカリンM3刺激剤が奏効します。保湿剤などは唾液分泌増加作用はありませんが、抗菌作用や菌、保湿効果が得られます。また、ナイトガードのように歯に装着する保湿装置は夜間の口腔乾燥に有効です。

う食症

1)砂糖を取らない、または減らす
2)歯の表面をフッ化物で処理する
3)口腔ケア

カンジタ症

真菌類(カンジタ)の増加は口腔乾燥症ではよくあります。
このような感染が見つかった場合には、イソジンや抗生物質、抗真菌剤などの投与を行います。真菌(カンジタ)は粘膜上に存在するため、舌背や頬部を徹底的に歯ブラシで磨くように指導します。歯ブラシは出来るだけ清潔にして、義歯も同様に行います。 

疼痛

口腔乾燥がひどくなると、舌や口腔内に痛みを感じるようになることがあります。また上記のようにドライマウスに起因したカンジタ症でも舌痛症が出現します。唾液腺閉塞の場合は唾液腺導管から唾液を搾取する方法があります。

痛みは神経質にさせます。例えば重度なドライマウスの患者さんは、ピリッとした辛い食物、または酸味のある食物に違和感を覚え、食物不摂取の原因にもなります。口腔保湿剤や唾液分泌刺激剤なども併用することで持続した改善が得られる場合があります。

 

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